坐剤の保管方法~「冷所」と「室温」に分かれる理由~

Ana
Ana

坐剤を検品する際、問屋さんは冷所と室温で製剤を分けてますよね。

なぜ保管方法の違いが出てくるのでしょうか?

薬剤師
薬剤師

薬剤の正しい保管条件を理解するのはとても重要ですね>

坐剤の保管に関しては、坐剤の材料である基剤の性質がポイントになります。

今回の内容は服薬指導にも活用できる知識ですので、しっかり復習しましょう!

Ana
Ana

はい、よろしくお願いします!


患者に坐剤の保管状況を確認する際、「とりあえず冷蔵庫で保存している」と回答する人は少なくありません。

しかし、実際には坐剤の保存条件は医薬品によって異なります。

その背景には、坐剤に使用されている基剤の性質があります。

今回は、坐剤の基剤の違いに注目し、「冷所保存」と「室温保存」が分かれる理由と、高温環境で起こりうる変化について整理します。


1. 坐剤の保管方法が製品によって違う理由

坐剤は、有効成分をそのまま固めたものではなく、基剤と呼ばれる材料に含ませて成形したものです。

坐剤の基剤は医薬品によって異なり、主に油脂性基剤水溶性基剤の2種類に分類されています。

基剤の種類によって、次のような特徴に影響が及びます。

  • どの温度で軟化・融解するか
  • 直腸内でどのように薬物を放出するか
  • 保存中にどの程度形状を保てるか

そのため、坐剤の保存方法を考える際には、基剤の性質を知ることが重要です。

ただし、実際の保存条件は基剤の性質だけでなく、製剤の安定性試験なども踏まえて製品ごとに設定されています。

したがって実務では、基剤の特徴を押さえつつ、最終的には添付文書や外箱に記載された保存条件を確認することが基本になります。


2. 油脂性基剤

油脂性基剤の坐剤は、体温で溶けることで有効成分を放出します。

基剤の融点(固体が液体に変わる温度)が低いため、高温になると溶けてしまい、冷蔵庫での保存が必要とされています。

代表的な油脂性基剤には、次の2つがあります。

  • ハードファット:天然油脂を原料に化学的な処理を加えて性質を調整した(半合成の)油脂性基剤で、グレードによって融点・凝固点が異なる(融点:37.0~39.0)
  • カカオ脂:複数の結晶形があり、調製時・保存時の温度によって結晶の型が変化し、それに伴って性質も変わってしまうため、現在ではあまり使用されていない

たとえば、ハードファットは、アセトアミノフェン坐剤などに使用されています。

実際に、アンヒバ坐剤小児用50mg・100mgのインタビューフォームでは、製剤の融点が規格(製品ごとに定められた許容範囲)によって33.5~35.5℃と記載されています。

すなわち、体温付近の温度で溶ける設計になっていることが分かります。

このような製剤では、高温になると坐剤そのものが軟化・融解する可能性があります。

そのため、油脂性基剤を使用した坐剤を持ち運ぶ際は、次のような保管環境に注意が必要です。

  • 真夏の高温環境
  • 直射日光の当たる場所
  • 暖房器具の近く
  • 日中の自動車内

3. 水溶性基剤

水溶性基剤は、直腸内の分泌液を吸収して徐々に溶解し、薬物を放出します。

体液による溶解であり、油脂性基剤のような低い融点を持ちません。

また、融点が体温より高く設定されているため、持ち運びの際は冷所保存の必要がなく、室温保存が可能です。

表的な水溶性基剤には、次の2つがあります。

  • マクロゴール:分子量などによって性状が異なる基剤(融点:50.0~60.0)
  • グリセロゼラチン:グリセリンとゼラチンを種々の割合で混合した基剤で、混合比によって軟化・溶解速度を調整できる

水溶性基剤を使用した坐剤の代表例には、ジアゼパム坐剤(ダイアップ坐剤)やドンペリドン坐剤などがあります。

高温環境での長期保管は避けたほうがよい

ダイアップ坐剤のインタビューフォームに記載された保管温度による安定性データでは、次のような結果が報告されています。

保存条件3ヵ月後6ヵ月後
5℃保存規格内を維持規格内を維持
40℃保存性状が淡黄色に
着色しはじめる
定量値が規格から外れる

「室温保存が可能」というのは、あくまで通常の室温環境(1〜30℃程度)を想定したものです。

特に夏場の炎天下での車内温度は、エアコンを使わない場合平均50℃前後に達するため、高温環境での長期放置は、水溶性基剤であっても避けるべきといえます。

このように、基剤の性質を知ることは重要ですが、実際の保存条件は製品ごとの情報を確認することが大切です。


4. 保管方法を説明する前に確認したいこと

一般的な目安として、冷所保存は1〜15℃室温保存は1〜30℃とされています。

しかし、たとえばヘルミチンS坐剤(次没食子酸ビスマス)は、添付文書上の「貯法」の記載は室温保存ですが、「取扱い上の注意」では「15℃以下で保存することが望ましい」ともされています。

このように、単に「冷所」「室温」という表記だけでなく、より具体的な温度範囲が指定されている坐剤もあります。

保存方法を確認する際は、貯法欄(添付文書等に記載される保存条件の項目)の表記だけで判断せず、注意書き全体を確認することがポイントとなります。


5. 高温で坐剤が溶けてしまったら?

油脂性の坐剤を暑い場所に置いて一度融解し、その後再び固まった場合は注意が必要です。

問題になるのは、再固化時の見た目の変化だけではありません。

融解によって坐剤内部の薬物が移動し、再固化した際に均一に分布しなくなる可能性があります。

≪薬物含量が偏る≫

アセトアミノフェン坐剤を用いた研究では、高温条件で坐剤を融解させた後に再固化し、内部のアセトアミノフェン量を測定したところ、坐剤の部位によって含量に差が生じることが確認されています。

つまり、見た目は元の坐剤に戻っていても、内部の薬物が均一とは限らないということです。

これは、融解した基剤の中を薬物の結晶が移動し、再固化する際に偏りが生じるためと考えられています。

≪再固化した坐剤を「分割使用」するのは避ける≫

小児や高齢者に坐剤が処方される場合、1回1本では量が多く、1/2本や2/3本などに分割して使用することがあります。

しかし、坐剤中の薬物の分布に偏りがあると、坐剤を半分に切っても、それぞれに含まれる含有量が均等になるとは限りません

そのため、高温によって一度融解・再固化した坐剤は、分割して使用することは避けたほうがよいとされています。

実際に、ジクロフェナクナトリウム坐剤「日医工」の患者向け説明資材でも、一度溶けて固まった坐剤では有効成分が偏る可能性があるため、半量で使用しないよう注意されています。


6. 使用期限と保管条件

坐剤には医薬品ごとに使用期限が定められており、製造から数年間に設定されているものも多くあります。

ここで重要なのは、使用期限は定められた保管条件を守ることが前提になっている点です。

たとえば、アンヒバ坐剤小児用では、製造販売元による安定性試験において、規定された保存条件で長期間安定であることが確認されています。

ただし、これはあくまで試験で設定された条件下での結果です。

一方、直射日光下や高温条件など、規定された保管条件から外れた環境では、比較的短期間でも基剤の融解や外観の変化が認められることがあります。

実際に40℃・60℃では数週間〜数ヵ月で融解し、さらに条件によっては、経時的な着色や特異なにおいが生じることも報告されています。

つまり、「使用期限が数年間ある」=「どのような環境で保管しても数年間使用できる」という意味ではありません

製造後の使用期限が長いことと、保管条件を適切に守ることは、別々に考える必要があります。

そのため、調剤・交付後の保管環境も、坐剤の品質を保つうえで重要です。

投薬時には、使用期限だけでなく、温度・湿度・直射日光などに注意した具体的な保管方法を患者や家族に説明することが大切です。


まとめ

投薬時には、患者や家族に「坐剤は種類によって保存方法が異なること」「高温を避けて保管すること」を具体的に伝えることが、品質保持の観点からも重要です。

  • 坐剤の保存条件は、使用されている基剤(油脂性基剤・水溶性基剤)の性質によって異なる
  • 油脂性基剤は冷所保存とされることが多い一方、水溶性基剤は室温保存が可能なものが多い
  • 水溶性基剤であっても、「室温保存可=高温でも問題ない」という意味ではない
  • 保存温度は、「冷所」「室温」という表記だけでなく、添付文書やインタビューフォームで具体的な条件を確認することが大切
  • 一度融解して再固化した坐剤は、薬物の分布が偏る可能性があるため、使用や分割は避けたほうがよい
  • 使用期限は適切な保存条件が守られていることを前提に設定されており、直射日光や高温を避けた保管が大切

※この記事は、医療従事者・医療系学生の方に向けて、勉強や情報整理の参考にしていただくために書いています。

特定の治療法やお薬の使用をすすめるものではありません。

制度や通知、ガイドラインなどの内容は、書いた時点の情報をもとにしています。

法令や添付文書は改訂されることがあるので、実際の現場で判断する際は、必ず最新の添付文書やガイドラインなど一次情報をご確認ください。

なお、当ブログでは正確な情報の発信に努めておりますが内容の完全性・正確性を保証するものではございません。

この記事を参考にされたことで生じた結果について、責任は負いかねますので、実際の治療方針は担当の医師・薬剤師の判断のもとで決めてください。

参考文献

Rp+ Vol.24 No.1 松本恵弘.「剤形別!子どものくすり、使いかたと工夫ガイド〔7〕坐剤・浣腸剤 103.105–107.120.

月刊薬事2022.4臨時増刊号, Vol.64 No.6,  河野弥生「患者の病態から考える坐剤調製の方法は?」Q41(第6章)200–202

直伝 小児の薬の選び方・使い方 横田俊平・田原卓浩・加藤英治・井上信明(編)2020.64–75

調剤と情報 2024.1, Vol.30 No.1 山本佳久.「一度融けた坐剤は,固まれば使っていいの?」2024.66–67.

薬局 vol.73 No.7 山本 佳久 「同時に2種類以上の坐剤を使用するときの注意点を伝える」2015.94-96

インタビューフォーム:ダイアップ坐剤4・6・10 (保管温度による安定性、薬効薬理・作用発現時間の項)2026

インタビューフォーム:アンヒバ坐剤小児用50・100・200mg(製剤の各種条件下における安定性の項、製剤に関する項)2024

インタビューフォーム:ドンペリドン坐剤10・30mg「日新」(製剤の各種条件下における安定性の項:加速試験・長期保存試験)2016

患者向け説明資材:ジクロフェナクナトリウム坐剤「日医工」 (坐剤の使い方・注意事項)2025

添付文書:テレミンソフト坐薬10mg (取扱い上の注意・保管上の注意の項)2026
添付文書:ヘルミチンS坐剤(貯法・取扱い上の注意)2024
真夏の車内温度(JAFユーザーテスト) | JAF

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