
小児は成長過程ですよね。
薬を飲んだ後、大人のように薬物は体内を巡ることができるのでしょうか?

小児の薬物治療に携わるうえで、とても大事な視点ですね。
小児は様々な臓器の働きがしっかりと機能するように成長段階です。
すなわち、成人に比べて体内動態もまだ未熟な状態です。

具体的にはどのくらいの差があるのでしょうか?

それでは今日は、体内動態の特徴を小児と成人で比較しながら学んで行きましょう。

はい、お願いします!
薬の体内動態
投与された薬物は吸収され全身の組織に分布し、作用部位で薬理作用を発揮します。
やがて小腸や肝臓で酵素により代謝され、 のち腎臓などで排泄されます。
この吸収・分布・代謝・排泄という一連の過程を「体内動態」(4つの頭文字からADMEとも)と言います。

小児の薬物動態の特徴
特に新生児期や乳幼児期を含めた小児期では、臓器の発達が未熟であり、薬物代謝能や排泄能は成人と大きく異なります。
一方で、学童児(6〜12歳)以降になると、肝臓での薬物代謝、腎臓での薬物排泄に関する機能は成人とほぼ同様となることが知られています。
そのため、小児の薬物療法では「生体機能の変化」,「薬物の体内動態の特徴」に基づいて薬物療法を行う必要があります。

吸収
薬物の消化管での吸収について、特に小児と成人で大きく異なる以下2点ついて述べていきます。
- 薬物の吸収率は、塩基性薬物は高くなり、酸性薬物は低くなる
- 最高血中濃度到達時間が延長する
乳幼児は消化管のpHが成人よりも高いことが知られています。
その点がどのように吸収率に影響をするか見ていきましょう。
まず前提として、薬物の多くは弱酸性、もしくは弱塩基性の性質をもっており、体内環境のpHに合わせて分子形又はイオン形ので存在しています。
生体膜は脂質の膜で構成されており、薬物は脂溶性の性質を持つとき、すなわち分子型で膜透過が可能となります。

特に消化管のpHは、体内環境の中でも薬物の安定性や溶解性に大きく関与しています。
出生直後の新生児や乳児の胃のpHは中性に近く、徐々に低下し3歳ごろに成人の胃内pH(pH1〜2)に達します。
これは、胃内pHが高いと酸性薬物はイオン型が多くなり、吸収が低下し、一方で、塩基性薬物は薬物は分子型となり、吸収が良くなる傾向があることを示しています。

また、乳幼児期は胃内pHが中性と一般より高いため、本来酸に不安定で失活しやすい薬物(例:ペニシリン系抗菌薬、エリスロマイシンエチルコハク酸エステルなど)は安定化、すなわち吸収率は増加する傾向があり、注意が必要となります。
新生児は蠕動運動(胃消化管運動)がまだ活発に働きません。
そのため、胃内容排出速度(GER)が成人より遅く、薬物動態にも違いが出てきます。

消化管移動速度が遅い、すなわち胃内の停留時間が長いと、「薬物」の最高血中濃度(Cmax)が低くなり、最高血中濃度到達時間(Tmax)が遅くなります。
一方で、吸収量の指数である血中濃度時間曲線面積(AUC)には大きな変動は見られないことが知られています。
※なおここでの「薬物」は、濃度勾配によって薬物吸収速度が決まる薬物をさし、例外もありますが、ほとんどの薬物が該当します。
分布
薬物分布における新生児、乳児期の特徴は、以下の2点が挙げられます。
- 水溶性薬物は濃度低下、脂溶性薬物は濃度上昇
- 血漿蛋白の濃度低下による作用増強
新生児、乳幼児は体重あたりの体内水分量が多く、脂肪量の比率が低い特徴があります。
体重当たりの総水分量を、成人の数値と比較してみましょう。

成人は体重当たりの総水分量が約60%であるのに対して、新生児約80%、生後3ヶ月では70%と高い割合ですが、1歳児で 61.2%とほぼ成人に近い数値に変化していきます。
このように体内の水分量が多い新生児と乳児期は、次のような薬剤の性質と血中濃度の間に相関がみられます。
水溶性の薬物は水分量の多い組織に分布するために、新生児、乳児期では分布容積が大きくなり、血中濃度が低下する可能性があります。
例えば水溶性アミノ配糖体を投与すると、新生児・乳児期では約2倍以上組織に広がり、体重あたりに投与しても血中濃度が十分に上昇しません。
一方で、脂溶性薬物を投与すると、新生児・乳児期は血中濃度が高くなる傾向になり、特に脳は脂質の占める割合が大きいため、中枢作用が強く発現しやすくなり、注意が必要です。
血漿中にはアルブミンなどのタンパク質が存在し、血中の薬物はそのアルブミンとの結合型と、離れている遊離型で存在しています。
中でも血管内で結合型の薬物は、組織に移行しにくいことから、効果を発揮することができません。
一方で遊離型の薬物は、毛細血管壁を透過できるため、組織へ移行後に薬効を発現することが可能です。

小児は血漿中アルブミン値は低いことが知られており、特に新生児では成人の25~50%ほど低値です。
その後、血漿中アルブミン値が成人レベルになるまでには、生後1~3年を要します。
よって、生後3歳頃までの小児は成人に比較して、遊離型薬物濃度が上昇し、組織移行性が促進され、結果として薬の効きが増強、さらに副作用発現頻度の上昇が強くなる傾向があると言えます。
アルブミンは非常に多くの薬物と結合しますが、血中濃度に影響を受けやすいのは、特にアルブミンとの結合能が高い酸性薬物(ワルファリン、フェニトイン、インドメタシンなど)です。
低アルブミン状態の新生児に酸性薬物を投与した際には、アルブミンの競合阻害が起きやすく、成人の場合よりも遊離型の薬物濃度が上昇するため注意が必要です

代謝
薬物はそれ自身が水溶性であれば、そのままの形で尿中などに排出されますが、脂溶性薬物は代謝により水溶性へと変化することで体外へ排出することができます。
薬物代謝には2つのステップあり、第1相代謝(酸化代謝酵素)と第2相代謝(抱合代謝酵素)に分けられます。
第1相代謝では、薬物代謝酵素CYPなどによって薬物を直接酸化し、極性を持たせて水溶性にします。
それでも不十分な場合には、第2相代謝でグルクロン酸や硫酸のような、より強い極性の成分を付加して水溶性を増し、排泄を促しています。
さて、ここからが本題です。
小児の薬物代謝は、その小児の肝機能(薬物代謝酵素)の発達に応じて影響を受けています。
例外もありますが、主な代謝酵素の発達は以下のように新生児~乳児期と幼児期以降~学童期では傾向が異なることが知られています。
- 出生直後~2ヶ月間は極めて低い活性を示し、その後2〜3歳で成人とほぼ同等に
- 幼児期以降~学童期では代謝が成人より速くなる
薬物代謝酵素は出生直後~2ヶ月間は極めて低い代謝活性ですが、以下の表のようにそれぞれの分子種によって発達スピードが異なります。


肝にて代謝される薬のクリアランスは、小児の肝機能の発達に応じて、影響を受けます。
中でも、新生児は第2相代謝のグルクロン転移酵素(UGT)の発現はとても未熟のため、基質の薬物が代謝されず中毒用量に達する事例も起きており、注意が必要です。
代表的な例として,クロラムフェニコールによる中毒症状である新生児グレイ症候群、また,モルヒネの中毒死(コデイン内服の授乳婦から暴露された)などが挙げられます。
幼児期以降~学童期では体重当たりの肝重量が大きく (成人の約2倍)、重量当たりの肝血流量も大きいために、肝代謝型の薬は成人よりも、より速やかに代謝されると言われています。
そのため、体重当たりの薬物投与量が成人よりも多く設定されている薬物(例:テオフィリン、カルバマゼピン、ジアゼパムなど)もあります。
排泄
排泄経路には尿中、胆汁中、唾液中、乳汁中、呼気中など様々ありますが、今回は主な排泄経路である腎臓の機能について述べていきます。

小児では尿中排泄を考えるとき、以下の特徴が重要となります。
- 水溶性で腎排泄型の薬物投与は、排泄が遅延しやすい
- 尿細管分泌が関与する薬物は体内に蓄積しやすい
腎臓組織におけるネフロンの形成は、胎生の早期から始まり在胎36週でほぼ完成します。
しかし、新生児は生まれて間もないため機能的には成人に比べて極めて未熟で、新生児の推定糸球体ろ過量(eGFR) は、 成人の5分の1程度です。
その後、腎機能は発達して生後8~12カ月で完成し、推定糸球体ろ過量(eGFR) も2歳前に成人値(100mL/分 / 1.73m²前後)とほぼ同等まで達します 。
そのため、特に新生児期へ水溶性の腎排泄型の薬物(例:ペニシリン系、セフェム系、アミノグリコシド系の抗菌薬など)を投与すると、排泄の遅延が起こりやすく注意が必要です。
また、尿細管分泌能も成人に比べて低いため、消失過程で尿細管分泌が関与する薬物(例:ペニシン系、ループ利尿薬など)は体内に蓄積しやすく、こちらも注意が必要です。
参考文献
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淺沼晋著 雑賀智也 監修 薬剤師のためのスキルアップレシピ 薬局の現場ですぐに役立つ 実践で学ぶ!薬物動態学 2020.12.13.80−82
監修 五十嵐隆 編集 一般社団法人日本小児総合医療施設協議会 第2版 全国こども病院の与薬・服薬説明事例に基づく 乳幼児・小児服薬介助ハンドブック 2019. 6.7.11.12


